「今月の反響は100件を突破しました!」
このような報告を受けると、つい「順調に集客できている」「広告効果が出ている」と前向きに捉えたくなります。
しかし、反響が多い=成果が出ているという等式は、果たして正しいのでしょうか?
個人的に反響を多数獲得している不動産会社が全て売上が高いかというとそうではないように感じます。
なかには、多数の反響を獲得しながらもなかなか売上を上げられない店舗があります。
賃貸仲介営業において、数字を追いかけることは非常に自然な行動です。
日々の成果を数値で表すことで進捗が可視化され、チーム内の評価にもつながるからです。しかし今、特に賃貸仲介の現場では、反響数だけを追っていても営業成果が伴わないという声が多くなってきています。
反響はあっても来店につながらず、さらに成約率も伸びない。このようなジレンマを抱えている店舗は少なくありません。
今、集客という言葉の意味が変わりつつあります。
ただ数を集めればよいという時代は終わりを迎えつつあり、「集客数」よりも「集客質」に目を向けることが求められているのです。
集客“数”に依存した営業が抱える問題
賃貸仲介業では、従来「反響数」「来店件数」「掲載件数」といった“数”をKPI(重要業績評価指標)として活用してきました。
とにかく反響数を稼ぎ、そこから営業をかけるという流れが一般的でした。
ポータルサイトに物件を多く掲載すれば反響が取れる時代には、それで成果が出ていたのです。
しかし、広告費は高騰し、反響数を得るためにコストをかけ続けるビジネスモデルは、限界を迎えつつあります。広告予算をかけても、それが成約に結びつかなければ、費用対効果が悪化するばかりです。
実際、現場では「50件の反響が来たが、成約は1件のみ」というケースが珍しくありません。
反響を取るために人と時間を使い、追客にも労力を割いているのに、最終的な成果にはつながらない。このような状態が続けば、営業スタッフは疲弊し、顧客対応の質も下がってしまいます。
“質の高い集客”とはどういうことか?
では、質の高い集客とはどのようなものを指すのでしょうか。単に「成約になりそうな人」だけを指しているわけではありません。
例えば、引っ越しの理由や時期が明確で行動意欲が高い方や、エリアや家賃について現実的な理解がある方、こちらからの連絡にしっかり反応してくれる方など、営業としてのコミュニケーションがスムーズに進む顧客は「質の高い反響」と言えます。
加えて、こちらの提案に対して前向きに耳を傾け、情報提供にも協力的な顧客は、成約の可能性が高く、営業効率も良くなります。
単に問い合わせをしてきたというだけでなく、関係性が築きやすいかどうか、という視点で反響の「質」を評価することが重要です。
なぜ今、“集客質”が重視されるのか
質の高い集客に注目が集まっている背景には、いくつかの環境変化があると考えます。
まず第一に、人手不足が深刻化していることです。
不動産業界では人材確保が年々難しくなっており、限られたスタッフ数で全ての反響に等しく対応することが現実的ではなくなっています。
そのため、より“濃い”顧客に集中して対応できる体制づくりが求められるようになりました。
次に、広告費の高騰も大きな要因です。
前述したようにポータル掲載費は以前に比べて格段に上がっており、数を稼ぐために費用をかけ続けるモデルでは採算が取りにくくなってきています。少ない費用で、より成約率の高い見込み客を集めることが、広告運用においても重要な視点になってきました。
さらに、顧客行動そのものも変化しています。
検索ワードで物件を探すだけでなく、SNSや動画で「暮らし方」をイメージしながら住まいを選ぶ人が増えています。
条件検索では拾いきれない「本音ニーズ」に応える提案が求められている今、見込み顧客の“質”に向き合うことが、営業成果に直結するのです。
KPI(指標)の再定義が必要な理由
こうした変化に対応するには、KPIの考え方そのものを見直す必要があります。
これまでのように「反響数」や「来店数」だけを成果の指標にしていては、営業活動の実態や接客の質を正しく把握することができません。
これからは、反響から内見につながる率、LINEの返信率や初回対応スピード、紹介時間、さらには申込から成約に至るまでのコンバージョン率など、行動や反応を軸にした評価指標が求められます。
顧客との関係性の深まり具合や、スタッフの対応力を測るKPIを導入することで、営業の方向性を的確にマネジメントすることができるのです。また、リピーター率や紹介数など、顧客満足度に紐づく数値も重要になってきます。
長い期間営業している仲介店舗ほど、そうした「見えにくい信頼資産」を数字として可視化し、継続的に育てていくべきでしょう。
“集客質”を高めるための取り組み
具体的に質の高い集客を実現するためには、日々の接客や反響対応のやり方を変える必要があります。
たとえば、問い合わせ時に「なぜこの条件を希望されたのか?」といった一歩踏み込んだ質問を投げかけることで、顧客の本当のニーズを引き出すことができます。
あるいは、LINEでの自動応答システム(Lステップなど)を活用し、顧客側の反応によって優先対応すべき見込み客を絞り込むフローを作ることで、効率的な対応が可能になります。
さらに、ポータルサイトだけに頼らず、SNSや自社サイトからの集客に力を入れることも、見込み顧客の“濃さ”を上げるためには効果的です。
SNSや自社サイトから来る顧客は、すでにブランドや担当者に共感しているケースが多く、成約に結びつきやすい傾向があります。
数字のその先にある、“本質的な集客”を見つめ直す
営業において、数字は成果の象徴です。
しかし、数字だけを追いかけていても、その内実がともなっていなければ、売上も信頼も継続しません。これからの時代は、「反響数が多い」ことよりも、「どれだけ成約に近づけたか」「どれだけ提案が伝わったか」といった、本質的な指標に目を向けることが求められます。
KPIの再定義とは、単なる数値の置き換えではありません。
それは、「自社が何を大切にし、どうユーザーと向き合うか」を問い直す企業文化そのものでもあります。
改めて自店のKPIを再定義してみても良いかもしれません。
“数”の営業から、“関係性”の営業へ。
“数”の集客から、“質”の集客へ。
今こそ、集客の本質を見直すタイミングなのです。